ボストンでの留学生活の中で、一番印象に残っている出来事のひとつが、語学学校で日本文化をプレゼンした経験です。学生時代、私は日本の大学を一年間休学してボストンに渡りました。日々の授業は英語漬けで、宿題やテストに追われることも多かったのですが、その中で異文化交流を体験できる時間は特別なものでした。ある日、先生から「自分の国の文化をクラスで紹介してみよう」という課題が出されました。それを聞いた瞬間、私は「日本文化を英語で伝えること」に挑戦してみたいと思いました。
最初は何をテーマにすべきか悩みました。日本にはたくさんの魅力があります。お寿司やアニメ、茶道や祭り、伝統的な礼儀作法など、話したいことは山ほどあります。ただ限られた時間の中で、クラスメイトにとってわかりやすく、しかも楽しんでもらえる内容にする必要がありました。そこで私は、日本の「食文化」と「日常の習慣」を中心に紹介することにしました。食べ物は誰にとっても身近で、興味を持ってもらいやすいと考えたからです。
発表当日、私は少し緊張しながら教室の前に立ちました。まず四季と食べ物の関係を説明しました。春には桜を見ながらお花見を楽しみ、お団子を食べること。夏には祭りでたこ焼きや焼きそばを味わうこと。秋には紅葉を眺めながら松茸ご飯を楽しむこと。そして冬には家族でおせち料理を囲むこと。スライドに写真を入れて説明すると、クラスメイトは「これは美味しそう!」と身を乗り出して反応してくれました。特に抹茶について話したときには、「苦いの?甘いの?」と次々に質問が飛んできて、その関心の高さを実感しました。
また、食べ物だけでなく、日本独特の習慣として「いただきます」と「ごちそうさま」を紹介しました。料理に対して感謝の言葉を口にする文化は、多くのクラスメイトにとって新鮮だったようで、「そんな言葉を毎日言うなんて素敵だね」と言ってもらいました。自分が当たり前だと思っていた習慣が、他の国の人にとってはとても特別に感じられることを知り、少し誇らしい気持ちになりました。
発表が終わると、クラスメイトから大きな拍手が起こりました。その瞬間、緊張が一気にほぐれて、達成感で胸がいっぱいになりました。普段は英語の文法やリスニングに苦戦していた私でしたが、このときは「自分の言葉で文化を伝えられた」という自信を持つことができました。言葉はただの勉強道具ではなく、相手とつながるための橋になるのだと強く感じたのです。
さらに、このプレゼンをきっかけにクラスの雰囲気も変わりました。後日、クラスメイト同士で「今度は自分の国の料理を作って持ち寄ろう」という話になり、国際色豊かな食事会が開かれました。ブラジル人の友人が豆料理を作ってくれたり、韓国人のクラスメイトが手作りのキムチを持ってきてくれたりして、まるで小さな世界フェスティバルのようでした。自分の発表がきっかけで、互いの文化をより深く知る場が生まれたことがとても嬉しかったです。
この経験を振り返ると、日本文化を紹介することは自分のルーツを再確認する時間でもありました。そして、異なる文化を持つ人々と理解し合うためには、まず自分自身の文化をきちんと語れることが大切なのだと学びました。ボストンでのプレゼン体験は、単なる授業の一場面を超えて、今でも私の心に強く残る大切な記憶です。留学生活の中で得た一番の収穫は、こうした「人と人をつなぐ瞬間」にあったのだと感じています。プレゼンの際は、夏休みにボストン留学した高校生の友達にも色々手伝ってもらって感謝です。